スマイリー
時は流れ、現在。



教室の窓に鮮やかなオレンジの光が射し込む。


「わぁっ、綺麗」


何人かの生徒が声をあげた。


教室内に残っている生徒は、もう10人程しかいない。


友人と雑談する者、自習する者、はたまた、購買で買ったパンを今頃食べ始める者。皆、思い思いの方法で放課後を満喫している。



「おうい、進。帰ろうぜ」


教室の外の廊下からひとりの男子生徒が怒鳴った。


その目線の先、窓際の席に座って一枚の紙切れを眺めている少年が、その声に反応して立ち上がった。



「悪い、用事思い出したから。先帰ってくれるか」


申し訳なさそうに右手を顔の前で立てて、“シン”と呼ばれた少年は彼に謝った。


「え。ああ。別にいいけど。じゃあな」


「また明日、あきら」


荷物を担いで帰っていく友人を見届けると、進は先ほど見ていた紙切れに再び目を通した。


“全国統一・記述模試”


でかでかと書かれた文字の下には、おそらく進の模試の結果であろうか、数字や漢字や平仮名が細かく無機質な文字で印刷されている。


さらにその下。

このあたりの地域にある、大学の名前が5校、羅列されていた。


関南大学(経営)
“C”

立山市立大学(国際コミュニケーション)
“D”

心学社大学(経済)
“D”

心学社大学(法)
“E”

西京大学(経済)
“E”


「…心学社の法も、西京も。またE判定か」


用事があるというのは嘘だった。


たまにつく嘘だった。


進は、ただ今日はなんとなく、ひとりで帰りたい気分だった。


美しい夕日も、今の進にとってはただただ眩しい視界の阻害物質でしかない。


進は荷物をだらだらとカバンに詰め込むと、小さなため息をはぁ、とついた。


そのまま、肩を落として空気の様に教室を出ていった進に気付くクラスメイトは、ほとんどいなかった。
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