スマイリー
2時間ほどで、英語の宿題にもようやく終わりが見えてきた。あとは最後の段落の和訳を残すのみとなった。



有華が手伝ってくれたお陰で、普通に解くよりもずっと早く終わった。



もちろん、あきらや有華の回答を写す方がもっと早いのは言うまでもないが、進はそのことはなるべく考えないようにした。



「はい。じゃあ最後の和訳、やってみて」



有華に言われるがままに、進は問題文と十数秒の間対峙した。



「…え、と、『世界的な人類学者のひとりである、ホフマン博士は、先住民族迫害の歴史的背景を抜きにして、アメリカの文化を語ることはできない、と述べた』かな」



「正解。ま、あたしの訳と同じってだけで正解かは分からないけどね」

「…大崎と同じなら合ってるだろ。お前が松野さんにあてられて間違ったとこなんて見たことないし」



「違う違う。あたし、松野先生と相性いいんだよね。偶然いつも分かる所しかあたらないってだけ」



進の記憶する限り、有華はあてられた問題に「分かりません」と答えたことはない。松野の英語の授業に限らず、他の授業でも大概の質問には悩むことなく即答してしまう。



それが「有華=秀才」の観念をクラスの生徒に植え付ける要因のひとつでもある。



もちろん、テストの成績優秀者の貼り出し制度があるものだから、学年規模で言えばそれが有華の「名声」を轟かせる最も大きな要因であると言えるだろう。
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