スマイリー
「大崎っ」



周りを歩く電車の利用客たちが、ちらりちらりと進を振り返る。



改札口を通ろうとした有華はぴたりと立ち止まって、あからさまに不機嫌な顔をした。



進も改札の前まで走って近づいた。改札を隔てて、ふたりが対峙した構図になる。



「…何で進がいるの」




「敬太先輩の代わり」



それだけで有華はだいたいのことを察したらしい。表情を変えることなく、くるっと回れ右をした。



「帰る」



「俺、大学行ってやりたいこと見つかったから!」



有華を呼び止めたときの3倍は大きな声がでた。あの夜、藍を呼び止めたときと同じくらいの大声。声が裏返る寸前。さっきより多くの通行人が進を振り返った。



ホームに向かおうとした有華の足が止まる。



「大学行って、大崎みたいになる。大崎を目指す」



色々な意味でだ。勉強面でも、人望の面でも。容姿は今さらどうしようもないが。人を無条件で幸せにする有華の笑顔も、進には無理かもしれない。
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