スマイリー
「さっきはごめん、ひどいこと言って。大崎なら西京でも、どこ行っても活躍できると思う。俺も」
有華は変わらず背中をこちらに向けたまま立ち止まっている。通行人の目が異常に気になる。だがこれは最後のチャンス。
「俺も、県内の方が嬉しい、し、そのっ」
ちょっとした人だかりが、進の周りにでき始めた。見せ物じゃない。だがこれは最後のチャンス。
「でも、東京もいいと思う。月1くらいで行くから案内してくれよ。今や2時間で東京に行ける時代だ」
進はとにかく有華が後悔しない進路を選んで欲しい一心だったが、もう言葉を出ていくままに口から発した。
「陸上のことなら何でも教える。コツでも何でも。あ、でも万一東京だったら、あれだ。メールしてくれ。あ、でもアドレス知らないな」
「ちょっと、もういいからっ」
有華が進の話を遮るように振り返った。顔を薄いピンクに染めて困ったような、怒ったような表情が可愛らしいと思うのは、不謹慎だと自分でも自覚した。
「恥ずかしいな。進は何が言いたいの?」
「俺は大崎がっ、」
勢いで言ってしまいそうになったのをぐっとこらえた。有華はくりっとした両目を見開いて、頬を一層赤くした。