スマイリー
参考書やプリントをめくる音、荷物をガサガサとあさる音が、異常なくらい耳につく。



指定された教室は、何かの講義で使われるのだろう、300人は収容可能な講堂だった。長机が横に4台並んで、階段状に20段、後ろに続いている。



進は後ろから4列目の真ん中あたりの席に座った。一番前のホワイトボードを見下ろす形になる。



すでに9割方、席が埋まっているが、センター試験のときと比べるとずっと静かだ。



腕時計を見ると9時10分を過ぎたところ。試験開始が9時40分だから、9時20分頃には試験官が入室し、点呼を始めるだろう。そう考えるとギリギリ到着と言っても過言ではない。



係員にもらわなくても実は持参してきていたタオルで顔を拭き、学ランを脱いでカッターシャツになった。暖房がよく効いているので、これでも暑いくらいだ。



筆箱と受験票を机の上に出して、気を落ち着ける。最初の教科は英語。いきなり正念場が待っている。



だが、ここまで来たらあがいても無駄だ。自分を信じろ。そう言い聞かせながら、携帯の電源を切るためにポケットから取り出す。



藍からメールが来ていた。ほんの1分前の受信だった。



“ビニル傘、630円”



払えと言うことだろう。今いる空間とのあまりのギャップに進はぷっと吹き出した。この張りつめた講堂で、自分だけ少し有利になった気がした。



“了解、わざわざありがとう”



送信完了画面を確認すると、進は改めて電源ボタンを押す。
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