スマイリー
2、3年用の昇降口から10メートルほど進んだところ、植木のそばにあるホース付きの水道で、進は頭を洗っている。



正樹考案の“30秒間で、生卵をおでこで何個割れるかなゲーム”で優勝した代償だ。髪の毛は黄身と白身でどろどろ。べたべた。しばらくしたら恐らくかぴかぴ。



青空、真昼の好条件の下でも、まだまだ冷え込む3月初頭。ホースから出てくる冷水は、頭から首筋まで容赦なく降り注ぎ、じわじわと体温を奪う。



「寒いっ、いや、痛いっ」



冷たさに体をよじりながら、卵を隅々まで洗い落としていく。



「…何やってんですか」



顔を地面に向けて洗っている進の頭の真上から、呆れ混じりの冷めた声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。



「その声は、あれだ。小林」



「当たりです」



タオルで顔を拭き、改めて小林淳也の顔を見る。バスケ部期待の1年生エース、イケメン度数は無限大。学ランを着るとひ弱に見えるのはご愛嬌。



「卒業おめでとうございます」



ほとんど棒読みで、淳也は冷徹に進を祝福した。
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