スマイリー




過ぎてしまえば意外と冷静に緩やかに振り返ることができるものである。今になってみるとセンター試験だってもう1ヶ月も昔の話だ。



こうやって少しずつ、今の出来事をどんどん重ねていくのだ。つらかった出来事はそのカドを取るように柔らかく、楽しかった出来事は色彩を施してより美しく。こうして現在を重ねるうちに頭が記憶に改変を加えていくのだろう、進の自覚のないままに。



有華の屈託のない笑顔も、飾り気のない表情もあと10年、いや、5年もすればより愛らしく、愛しく思い出すようになることだろう。なにしろモトが良いのだから。



そうやって過去に恋するうちに、進も大人になっていくのか。藍を忘れ、有華を忘れ、全く新しい女性と付き合って、結婚して、家庭を持つのか。



そこまで考えると、いったいどこまでが現実で、どこからが妄想か、整理がつかなくなる。必死に整理をすすめるうちに、今度は一体自分は何を考えているのかと、自嘲的になりもする。
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