スマイリー
「いいじゃん。頑張れよ」
「あたし足遅いけど大丈夫かな」
有華は昔バスケ部だったが、背の低さと足の遅さでレギュラーになれなかったという過去があった。
「練習すれば足は速くなるよ」
「中学の時はダッシュとかランニングも相当やったけど、目を見張るような成果なし」
「短距離が苦手なヤツは、長距離が得意ってこともあるぞ。俺も短距離は遅い」
そう言うと、有華はいつもの笑顔をまた見せた。今日はいつも以上によく笑う。
「じゃああたしも長距離やってみようかな」
「お前にできないことなんて、もはや何もないさ」
進は有華が手に持っていたホットココアをぱっと取り上げ、まだ半分ほど残っていたココアを全部飲み干した。
「あ、ちょっと」
「ごちそうさま」
空き缶だけ有華に押し付けて、進は立ち上がった。まだ追いコンは途中だし、プレゼントももらっていない。
「そのセリフ、聞き取り方によっては結構やらしい」
有華も立ち上がって進を見上げ、文句を言った。その淡く高潮した頬が、進にも伝染する。
「大崎の聞き取り方が悪いってことだな」
「意地悪」
有華は悪態をついて、空き缶をぽいっと投げた。進と同じように、空き缶は綺麗な弧を描いてゴミ箱に吸い込まれていった。