スマイリー
と、調理室の隣にある非正規の入り口に、進の荷物がまとめて置いてあるのが分かった。
すぐにピンときた。
「…正樹、お前もグルか」
「進、早くー」
「へいへい」
正樹が用意しておいたらしい荷物を素早く担いで、進は有華を追いかけた。
長い高校生活。だが最後の半年は、それこそ光陰矢のごとし。あっという間の出来事に思える。それだけ、色濃い思い出が多かったと言うことか。
「2つ目のお願いは?」
「まだまだ。あせらないでよ」
「追いコンでもらうはずだったプレゼント分、埋め合わせしてもらうからな」
「えー?ホットココアでいい?」
「ダメだ」
大学に行く意味を考えた半年間。大した答えは出せなかったけれど、それも進にとっては大切な答えだ。
悩みながら生きることも、ひとつの答えだと思えた。悩みながらでも、自分は笑える。笑顔になれる。
有華の笑顔がそれだった気がする。幸せを呼ぶ、屈託のない笑顔。
この笑顔を守ることが、当面の目標か。まだ告白もできていないけれど。
進はこれからも少しずつ、記憶に今の出来事を重ね続ける。現在を積み重ねて生きていく。
だがこれだけは言える。
有華のことは忘れそうにない。
進は有華に続き、西門を勢いよくくぐった。
進の高校生活が終わった瞬間だった。