スマイリー
と、今度は電話の着信音がけたたましく鳴り出した。
「もしもし?」
“よう、昨日から帝二も夏休みじゃないか?今日ヒマなら遊びに行こうぜ”
あきらはいつも変わらないテンションで、定期的に遊びに誘ってくる。西京に友達がちゃんといるのか、たまに心配になる。
「今日は先約がある。悪いな」
“マジで。じゃあまた今度な”
「おう。じゃあまた」
服を着替えながら、電話をぷつりと切る。
父、茂はすでに出勤済み。進は清美の作った朝食を手早く平らげ、玄関に急いだ。
「進、忘れ物は?」
「ないよ。明日の夕方には帰る」
洗い場からの清美の声に答えると、進は家を出た。
真夏の太陽は、朝から鬱陶しいくらいに光エネルギーを無駄に供給してくる。
進は歩きながら、朝のメールを確認した。
“11時に東京駅の南3番出口。分からなかったら連絡すること。時間厳守。お昼、どっか行きたいところある?”
わざととしか思えない堅い内容のメールは東都大学文学部1年生、大崎有華からだった。
進は立ち止まって、時刻表と乗り換え案内を携帯で調べた。
「ギリギリ…遅刻だな」
進はすぐにメール編集画面に切り替え、返信メールを作成すると、送信ボタンを押した。
携帯をパタリと閉じて、地面を蹴って走り出す。
やはり久しぶりの再会は、笑顔で会いたいし。
“了解。着いたら何か食べたいかも。場所は有華に任せる”
あのときの有華の2つ目のお願いは、なんてことない。
“有華のことを下の名前で呼ぶ”
それだけのことだった。
照りつける太陽の下、進は軽快に歩を進める。
あの笑顔に、会いに行く。
fin.