スマイリー
時は10月半ば。日に日に気温は下がり、夜になればもう吐く息が白い。



冬の訪れはすなわち受験の到来を示唆している。


冷たい風邪が頬を刺す。


寒さが増してくるにつれて、受験生は否応なしに焦りを感じさせられる。


『時間がない』という言葉が、常に彼らの周りを付きまとう。






進もつい最近まで受験の重圧や成績不振に悩まされていた。


何もしないうちに時間がどんどん過ぎていってしまう焦燥感を感じていた。


そのせいか、自分の体内時計の秒針が標準の何倍ものスピードで動いていることを進は自覚すらしていた。






ただ、ここ数日のうちにそんな感情は落ち着き、焦りは消え、余裕が生まれた。


進の体内でも時間はいつものように正確に流れるようになった。






進はそれが有華のおかげだと確信をもって言えた。



ところが、である。


今、進の体内時計は再び狂い始めた。日付が数年前に遡って、秒針がピタリと止まっている。


藍を目の前にして、進の時間感覚は完全に静止の状態となっていた。


藍と過ごしていた中学、高校時代の一時。まるでそのときの居心地の良さが、進を現実に引き戻すまいと、進の脳に一種の麻薬的な物質を分泌させているかのようだった。
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