スマイリー
そういえば、という表現が適切だろうか。
突然に、藍が男と歩いていたというあきらの話が進の脳裏に浮かんできた。
あきらによると、仲も良さそうだったらしい。
一緒に歩くくらいだからある程度仲が良いのは当然であろうが、細かくはあきらから聞かなかった。
仲が良さそう、というのは、どんな状態だったのだろう。
そんな疑問が進の停止した思考を再び作動させ始めたようだ。
「こら、こら、こら!」
肩を数回強く叩かれて、進は藍の顔を見た。
「どうしたのよ。ぼうっとしちゃってさ」
思い出した。藍の魅力は、その澄みきった声だった。
大きな声を出さなくてもよく通り、秋晴れの日に広がる青空のような、小川を清涼な水が流れるような透明感のある声だった。
「ほんとに、変わってないですね。全部」
「半年で変わる方が難しいでしょ。あたし茶髪嫌いだし」
進は不意に、気になっていたことを切り出す決心がついた。
なんとなく、言っても特別ふたりが気まずくなるなんていうことはなさそうだったからだ。
「そういえば、あきらが駅で藍さん見かけたらしいですよ。男の人といたって」
藍は進の顔を見た。
その表情を見て、進はすぐに失敗に気付いた。今それを聞くのは完全に失敗だった。
数秒困ったような笑顔を見せた藍は、一瞬無表情になったように見えた。
ただ、あまりに一瞬のことで、進には無理な笑顔を作っている頬の筋肉が緩んだくらいにしか見えなかったのだが。
すぐにまた笑顔を取り戻した藍は、少しためらってから口を開いた。
「そっか…あの時、あきらくんいたんだ」
進は、その後にくるであろう言葉を漠然と予想してはいた。情けないことにもう有華のことなど頭からはすっかり消えていた。
「ええっと、その、あの人はね?…うん。あたしの好きな人」
頭を金槌で殴られたような衝撃と言うよりは、むしろ獰猛な雀蜂に刺されたようなひりひりとした痛みだった。
その毒が進の胸の奥からじわりじわりゆっくりと、確実に全身に広がっていく感覚が、進には不気味なほどはっきりと感じられた。
突然に、藍が男と歩いていたというあきらの話が進の脳裏に浮かんできた。
あきらによると、仲も良さそうだったらしい。
一緒に歩くくらいだからある程度仲が良いのは当然であろうが、細かくはあきらから聞かなかった。
仲が良さそう、というのは、どんな状態だったのだろう。
そんな疑問が進の停止した思考を再び作動させ始めたようだ。
「こら、こら、こら!」
肩を数回強く叩かれて、進は藍の顔を見た。
「どうしたのよ。ぼうっとしちゃってさ」
思い出した。藍の魅力は、その澄みきった声だった。
大きな声を出さなくてもよく通り、秋晴れの日に広がる青空のような、小川を清涼な水が流れるような透明感のある声だった。
「ほんとに、変わってないですね。全部」
「半年で変わる方が難しいでしょ。あたし茶髪嫌いだし」
進は不意に、気になっていたことを切り出す決心がついた。
なんとなく、言っても特別ふたりが気まずくなるなんていうことはなさそうだったからだ。
「そういえば、あきらが駅で藍さん見かけたらしいですよ。男の人といたって」
藍は進の顔を見た。
その表情を見て、進はすぐに失敗に気付いた。今それを聞くのは完全に失敗だった。
数秒困ったような笑顔を見せた藍は、一瞬無表情になったように見えた。
ただ、あまりに一瞬のことで、進には無理な笑顔を作っている頬の筋肉が緩んだくらいにしか見えなかったのだが。
すぐにまた笑顔を取り戻した藍は、少しためらってから口を開いた。
「そっか…あの時、あきらくんいたんだ」
進は、その後にくるであろう言葉を漠然と予想してはいた。情けないことにもう有華のことなど頭からはすっかり消えていた。
「ええっと、その、あの人はね?…うん。あたしの好きな人」
頭を金槌で殴られたような衝撃と言うよりは、むしろ獰猛な雀蜂に刺されたようなひりひりとした痛みだった。
その毒が進の胸の奥からじわりじわりゆっくりと、確実に全身に広がっていく感覚が、進には不気味なほどはっきりと感じられた。