スマイリー
進は、藍に感謝していた。
藍のことが好きであるし、
―もちろん人間として好きであるという意味に留まるはずだが―
なにより藍は久しぶりに会った今でも変わらず進と接してくれた。
それはごく些細なことではあったが、進にとっては大きな意味をなしていた。
ろくに連絡も取っていなかったふたりの関係は、道ですれ違っても声をかけないレベルにまで達していたと勝手に思い込んでいたからだ。
だから進は藍の言葉には確かにショックを受けながらも、それを表には出さないよう努力した。
好きな人がいるとかいないとか、関係ない。
藍に会えただけで進は十分嬉しかった。そう考えてみると、意外なほど進の努力は成就した。
藍を困らせたくないので、進はその好きな人の話はこれ以上聞かないことにした。
というか、進自身が聞きたくなかったことと、これ以上聞く勇気なんて湧いてこなかったことが専らの理由だった。
「ええと、で、こんなところで何してたんですか?確か県外の大学に行ってるんでしょ」
藍は肩までかかる綺麗な黒髪を右手でさわりながら、まだ照れくささが抜けない笑顔をしていた。
「この辺りに住んでる高校の時の友達と遊んでた。県外って言ってもお隣の県だし、そんなに遠くないのよ?今から帰る所なの」
「そうなんだ。車かなんかですか?」
「ううん、電車。そこの西波駅からだいたい…2時間くらいかしら」
十分遠いじゃないか…。心の中でそう呟きながらも、現実では「へぇ」と、相づちを打っただけだった。
そもそも、もう9時を過ぎている。次の電車に乗れても藍が帰宅するのは11時過ぎということになる。
「今から帰って、明日も朝から大学ですか。ハードぉ…」
「まぁね。でも、なんてことないのよ。ほんとに。大学なんて」
大学なんて。
その言葉が進の胸をちくりと刺した。
「あ、ご、ごめん。気悪くした?」
受験生の進の気持ちを察した藍は、すぐに謝った。
「え?あ、いやぁ、全然?」
明らかに動揺しながらも進は露骨に藍から目を逸らした。
藍のことが好きであるし、
―もちろん人間として好きであるという意味に留まるはずだが―
なにより藍は久しぶりに会った今でも変わらず進と接してくれた。
それはごく些細なことではあったが、進にとっては大きな意味をなしていた。
ろくに連絡も取っていなかったふたりの関係は、道ですれ違っても声をかけないレベルにまで達していたと勝手に思い込んでいたからだ。
だから進は藍の言葉には確かにショックを受けながらも、それを表には出さないよう努力した。
好きな人がいるとかいないとか、関係ない。
藍に会えただけで進は十分嬉しかった。そう考えてみると、意外なほど進の努力は成就した。
藍を困らせたくないので、進はその好きな人の話はこれ以上聞かないことにした。
というか、進自身が聞きたくなかったことと、これ以上聞く勇気なんて湧いてこなかったことが専らの理由だった。
「ええと、で、こんなところで何してたんですか?確か県外の大学に行ってるんでしょ」
藍は肩までかかる綺麗な黒髪を右手でさわりながら、まだ照れくささが抜けない笑顔をしていた。
「この辺りに住んでる高校の時の友達と遊んでた。県外って言ってもお隣の県だし、そんなに遠くないのよ?今から帰る所なの」
「そうなんだ。車かなんかですか?」
「ううん、電車。そこの西波駅からだいたい…2時間くらいかしら」
十分遠いじゃないか…。心の中でそう呟きながらも、現実では「へぇ」と、相づちを打っただけだった。
そもそも、もう9時を過ぎている。次の電車に乗れても藍が帰宅するのは11時過ぎということになる。
「今から帰って、明日も朝から大学ですか。ハードぉ…」
「まぁね。でも、なんてことないのよ。ほんとに。大学なんて」
大学なんて。
その言葉が進の胸をちくりと刺した。
「あ、ご、ごめん。気悪くした?」
受験生の進の気持ちを察した藍は、すぐに謝った。
「え?あ、いやぁ、全然?」
明らかに動揺しながらも進は露骨に藍から目を逸らした。