スマイリー
有華と言えば、容姿良好。頭脳明晰。快活で人望も厚く、常にクラスの中心にいる。



噂によると、2年のとき、2週間の間にバスケ部エース、野球部の一番手ピッチャー、3年の生徒会長と、立て続けに告白されたという伝説があるとかないとか。



有華が誰を選んだのか、はたまた誰も選ばなかったのかは定かではない。そもそもその伝説の真偽も定かではない。



ただ、それは校内規模での有華の人気を決定的に裏付けるものであったし、有華の順風満帆な人生の一要素となっていたことには、議論の余地がなかった。



そんな有華の口からこぼれたのは、意外にも進の前向きさを羨ましがるような言葉だった。



「…大崎だろう、前向きなのは。俺なんて全然」



「あたしにだって、悩みのひとつやふたつあるもん。キャラの関係であんまり人に相談できないだけ」



“どんな成功者も、我々と同じ人間だ。上手くいかないこともあるし、悩みもする。ただ、上手くいっている部分が表面上に大きく現れているだけだ”



どこぞの有名な学者が述べていた名言が、妙にリアリティーを増した。



その学者が念頭においた「成功者」ほど規模は大きくはないが、目の前にいる有華は進たち受験生の中で、確かに「成功者」に近い存在ではあった。



「悩みって何。クラスで絡むこともあんまりないし、俺になら言ってくれても問題ないだろう」



「ええ、でもなぁ」



「ココアおごってやったじゃないか」



「お金いらないって自分で言ったくせに」



苦笑しながらも、有華は進に話をすることを承諾してくれたようだった。
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