スマイリー
「じゃあ、簡単に言うね?怒らないでね」



「なんで俺が怒るんだよ。早く話せって」



有華はその場にしゃがみ込んで、また空を見上げた。



「学年主任の先生が、もっと上の大学受けろって言ってくるの」



「…羨ましい悩みだな」



「だから怒らないでって言ったじゃん」



「怒ってないよ。どこ受けろって?」



「東都大の文学」



東都大学といえば、旧・帝国第一大学。首都、東京にある国公立大学の中で頂点に君臨する大学だ。



「もっと上っていうか…日本で一番上じゃないか。センターいくついるんだよ」



「ボーダーが800くらい」



「は、800?ほぼ9割じゃん」



進が最近とっている点数よりも200点近く高い。有華がそのレベルで闘っている生徒であることに、進は今さらながら実感を持った。



「うん。あたし文学興味ないし、ひとり暮らし怖いし、受かるか分かんないし嫌ですって言うんだけど」



「まぁ、東都大合格者が出れば、うちの学校も知名度アップだしな」



そこそこの進学校だと、よくあることだ。高校側は、私立大学よりも、国公立大学の合格者数を重要視する。



生徒たちにはなるべく多くの大学を受けさせ、数で勝負させる。勉強のできる生徒には彼らの意向をほとんど無視して無理やり上位の有名大学を受けさせ、「国公立大学、〜名合格」だとか、「○○大学合格者、〜名」のような宣伝効果を期待したりする。



「なんであたしが客寄せパンダみたいなことしなきゃならないの?絶対いや」



険しい顔つきで、有華が吐き捨てるように言った。



怒らないで、と言った張本人が、烈火の如く怒っている。



だが、それを突っ込めるような雰囲気では到底なかった。笑顔を失った有華は、何だか別人のようで怖かった。
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