スマイリー
7 沙優ちゃん救出大作戦・前編
2週間後。



朝6時45分過ぎ。乗客の眠気を誘うように揺れる電車の窓からは、暗い藍色の空が広がっている。



11月も半ばを過ぎた。日が短くなり、朝夕は一層冷え込む。



暖房がかかり始めの早朝の車内は、まだあまり暖かくない。がらがらの座席に座っている進は、マフラーを巻いたまま眠い目をこすり、英単語を暗記していた。



「emigrant…ええと、移民」



進が電車に乗っている時間は約30分。それだけあれば単語の5個や10個くらいはなんとか覚えられる。



「次は…と、何これ。えん、えんさいくろ…ぺであ」



高3になっても、まだまだ知らない単語は多い。



さすがは一言語。単語、熟語にしろ、文法にしろ、勉強すればするほど知らないことが増える。むしろ自身の無知を知ると言うべきか。英語とはそういう教科だ。



「えん、えんさいくろ…」



「encyclopedia」



ひとつ前の駅から進の隣に座っていた同じ学校の女子生徒が、進に代わって発音した。



「あれ。ええと、沙優ちゃん?」



「おはようございます、前島先輩」



くすくす笑いながら、沙優は進に挨拶した。
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