スマイリー
岩瀬沙優。何週間か前に、あのバッティングセンターでの事件で偶然知り合った後輩だ。



「全然気づかなかった。久しぶり。ええと、悪いんだけどもう一回読んでくれない?」



沙優は今度は声を出して笑った。小柄な体格とは裏腹に、その声は割と大人っぽい。



「良いですよ。encyclopedia」



「えんさいくろぴーでぃあ」



「そんな感じです。意味は“百科事典”」



右手でOKサインを作って、沙優が説明した。



「ありがと。発音良いね」



「あたし、帰国なんですよ」



帰国子女は進の学校ではそう珍しくない。



進の高校でもそうだが、高校によっては入試で帰国子女推薦というものが採用されている。



一般入試で入学する生徒とは別に、帰国子女専用の入学枠が20人ほど独立して設けられているのだ。



だから、計算すると、ひとクラスに2、3人は海外での生活経験がある帰国子女がいる、ということになる。



「ああ、道理で。どこに?」


「イギリスに2年です」



「へぇっ、すごいな」



進は尊敬の眼差しを沙優に向けた。
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