スマイリー
「沙優ちゃんが直接言えばあいつも下の名前で呼んでくれるかもね」



「ぜ、絶対、無理です。淳也くん、モテるし」



進は淳也の顔を思い出してみた。あの時は、辺りが暗かったのと、事件のインパクトが強すぎたのとで、あまり印象に残っていなかった。



だがよくよく思い返してみると、進よりはずっと男前だった気がする。



「あいつ、部活は?」



「バスケです。1年生唯一のレギュラー」



なるほど、そういえば春先に、バスケ部の友人に聞いたことがある。即戦力の1年生が入部したと。



“2年じゃ相手にならないよ。上背はないけど、いきなりエースだな。ありゃ本物だ”



嬉しさ半分、悔しさ半分の友人のしゃべり方を、進はよく覚えている。



ありがちなパターンだ。淳也は中学で腕をならしたスター選手。高校でも即エースの活躍をみせるとなると、練習や試合では自ずと彼目当てのギャラリーも増えるだろう。



となると、沙優も淳也をとりまくファンのひとりで、あの事件でめでたく友達に昇格とあいなった、と言ったところか。



「…前島先輩?」



「あ、ああ、何でもない」



少なくとも沙優本人はそのように思っているだろう、“友達になれた”と。淳也にそれ以上の感情があるとは、夢にも思っていそうにない。



それにしても、人は見かけによらないと言うか―もっとも、淳也の見かけなど、ほとんど覚えてはいないが―あの時の淳也は、スター選手のオーラなど全く感じられず、ひ弱な男子高校生の印象が、前面に押し出されていた。



バスケのコートでしか個性を発揮できないタイプだろうか。あれでは不良たちに絡まれるのも無理はない。



まあ、そのギャップが周囲を惹き付けることもあり得るだろう。ある意味才能だ。
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