スマイリー
8 沙優ちゃん救出大作戦・後編
チャイムと同時に生徒たちは自然と何組かのグループに別れて、待ってましたとばかりに弁当や購買のパンを広げ始めた。



授業中の緊張感は一気に弾けて、教室内が会話と笑い声でがやがやと大騒ぎになる。



どのクラスにもある、一般的な昼休みの風景だ。



岩瀬沙優は、窓際の席に座って、友達と数人で小さな輪を作り、弁当を食べていた。



それをいち早く見つけたのは進だったが、声をかけたのはあきらと美紅だった。



「沙優ちゃんっ」
「沙優ーっ」



一瞬、教室中の視線が進たちの方へ一斉に集まったが、それが自分達に関係のないことだと分かると彼らはすぐに興味を失い、さっきまでの大騒ぎに戻った。



「えっ」



沙優は驚いた顔をして進たちを見た。沙優と一緒に昼食を食べていた女子生徒も、困惑気味の顔でこちらを見つめている。



「遊びに来たよ」



進がそう言うと、沙優は何を安心したのか、ふっと口元だけの微笑みを見せた。



「どうぞ。こっち来てくださいよ」



沙優は周りの生徒に軽く了承をもらって、手際よく机を2、3個くっつけながら、一緒に昼食を食べていた数人に進たちを紹介していく。



「3年生の前島進先輩、小島あきら先輩、松本美紅先輩。あと…」



沙優はひとりひとりフルネームで紹介したあと、言葉に詰まった。美紅の隣でにこにこ笑っている女子生徒とは初対面だった。



「大崎有華です。よろしくね」



有華は軽くお辞儀をすると、すっと沙優の隣に立った。



「沙優ちゃん背いくつ?」



「え、146センチですけど」



「へぇっ、高校生に見えないね。見てて癒される」



そのまま有華は沙優の頭をなでてみせた。一方の沙優は、驚きと照れくささが混じったような顔で、有華のされるがままとなっている。



有華は、打ち解けるのが早い。もう沙優の友人にも声をかけ、すでに話に花が咲いている。彼女の性質と言うか、特技と言うか。



魅力というか。



「さ、メシ食べようぜ」



あきらの一声で、進たちも加わった新しい輪で、昼食は再開された。
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