スマイリー
「模試なんて別に良いじゃん、悪くても」

「…は?」



進が話し終わってすぐ、屈託のない笑顔を見せた有華の返答は意外なものだった。



「偏差値ねぇ…。進、数学得意だったよね。何点だった?」

「…130点だけど」

「あたしより良いじゃん」



進の背中をポンっと叩くと、白い歯を見せてにっと笑った。



失礼なほどによく笑うヤツだが、それはそれでどこか暖かさのある優しい笑顔だった。



「要は、当日受かれば良いのよ」



急に自分の持っている悩みがみるみるしぼみ始めた。それは目を凝らして見ると、実は遊園地でピエロがよく配っている風船のようなもので、進の過剰な焦りがそれを必要以上に膨らませていたのだった。



進はさらに目を凝らした。



風船を配っているピエロは、進自身だった。



「そういうもんか」

前向きな有華がものすごく眩しく見えた。



「参考になった?頑張りなよ」



年に1度あるかないかの美しい夕焼けを見上げながら、有華は一言付け足した。



「応援してるから」



駅に着くと、じゃあ、と言って二人は別れた。
ホームに上がるとすぐ電車が入ってきた。バッグから模試の結果を取り出す。



「やってやる」

ふっと笑みをもらした進は、
それを両手で力強く丸め、ホームのゴミ箱に投げ捨てると、勢いよく電車に飛び乗った。
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