スマイリー
体育館の入り口からがやがやと出てくるいくつかの集団のうち、男子バスケ部と思しきグループに目をつけると、そのなかに小林淳也の姿もすぐに見つかった。



進に声をかけられて、淳也は立ち止まる。彼は一瞬当惑の表情を見せたあと、淳也と共に立ち止まった5、6人の部員たちに何事か言葉をかけた。



部員たちも一言二言淳也に声をかけると、彼をおいて歩き出した。それを見届けた淳也はようやく進との間合いを詰め始める。



「よう」



進の呼び掛けに、淳也は会釈で返した。部活用のジャージを着て、額にうっすら汗をかいているその容姿は、なるほど彼のファンがたくさんいるのも大いにうなずける。



「今日教室来てましたね」



「ああ、あの時帰ってきてたのか」



「戻ってきた時に、ちょうど先輩たちが帰るところでしたよ」



部活後の充実感がにじみ出ているかのような微笑を湛えて話す淳也の姿は、男の進から見ても実に清々しい。バッティングセンターでの事件で会った困惑顔の淳也とは、まるで別人だ。



「悪いな、お疲れのところ呼び止めちゃって」



「構いませんよ、全然。その、あれでしょ?岩瀬がらみの話でしょ」



少々頬を赤らめて――辺りは暗いので口調から進はそう推測したのだが――淳也が発した言葉は、進を驚かせた。



「え。もう伝わってるのか」



「放課後に正樹が男子全員呼び集めて、緊急会議ですよ」



正樹を選んだのはどうやら成功だったようだ。やるときはやる頼もしい後輩である。



「話が早くていいや。手短に言うと、これからクラスの男どもがちょいちょい沙優ちゃんに話しかけると思うが、気にするなって伝えたかっただけ」



正樹の迅速な行動のおかげで、クラスの男どもが沙優にちょいちょい話しかけるという事実が淳也にはとうに伝わっていたこととなると、進がそれを伝えに来たことは全くの無意味だったことになる。



「べ、別に、気にしませんよ?何で俺が」



が、淳也の動揺ぶりや、赤面ぶりを見ていると、そこまで無駄足ではなかったように思える。



「…小林お前、面白いな。びっくりするくらい顔に出るタイプだ。俺と一緒で」
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