スマイリー
「それだけですか、用事は」



動揺と照れを隠すかのように、淳也が憮然とした表情を作って問いただした。



「主にそれだけ。時間とらせたな」



「いえ、全然」



昇降口の屋根に付いている時計は7時を知らせている。



「小林もちゃんと沙優ちゃんに話しかけるんだぞ。あと女子に沙優ちゃんの良さを伝えるのはお前の重要な役目だと思うよ、お前イケメンだから。じゃあな」



「あの、前島先輩」



自分の果たすべき役目を終え、帰ろうとする進を淳也はあわてた口調で呼び止めた。



「なに?」



「ええっと、その、岩瀬がそんな風になってるのは僕のせいだって、みんな言うんですけど、そうなんですか」



「そんなことないよ」



わざわざ淳也を悩ませることはない。そう判断して進は堂々と嘘をついた。



きっと、正樹や他の友人たちにとっては、想像するのは進以上に容易かっただろう。



共に人気のある淳也と沙優が仲良くなりだしたのは、進よりも正樹たち同じクラスの人間の方がすぐに察知できるはずだ。



さらにそのタイミングで彼女の噂が流れれば、何が原因であるかを考えることは正樹たちの想像力をもってすれば、そう難しいことではない。



「何が原因か考えることは意味のないことじゃあない。でも今は、沙優ちゃんを助けるのが先さ。それに」



淳也のすっと通った鼻筋が目に入った。



「原因が分かったところで、どうしようもないことも往々にしてありえる」



それともお笑い芸人になれる顔にでも整形するか?



と、言いかけたが、さすがに思いとどまった。
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