スマイリー
できるだけ頑張ります、と言い残して去っていく後輩の姿を、進はなるべく明るく見送った。



「はぁ。任務完了ってか」



肩の力がすうっと抜けていく感覚は、何か厄介事を片付けた後に襲ってくる心地よい疲労感だ。



だが、現実的問題山積みの進にとっては、再び進路その他もろもろの、もっと社会的重要性の高い厄介事と向き合うことになるので、あまり歓迎できる感覚ではない。



心地よい感じが去ったあとからすぐに、胸の奥から喉の下あたりまで、得体の知れない半液体半個体の生命体がくっついているのを進は思い出さざるを得ず、進を内側から陰湿に圧迫してくるそれに現在進行形で悩まされている。



そんな嫌悪感溢れる感覚は、恐らく受験が終わるまで進にまとわりつくことだろう。



「逆に言えば、あと数ヶ月の辛抱ってことだ。前向き前向き」



独り言をかき消すように冷たい風がひゅうっと進の頬をなでた。



「さて、これで沙優ちゃんの未来は明るいぞ」





もしも、何も変わらなかったら。



作戦の効果が現れなかったら。



1週間経っても、2週間経っても、悪質な噂が流れ続けたら。



途切れることなく吹き続ける北風が一層冷たくなった気がした。



「んー」



進は腕組みして思案を巡らせた。11月3週目の夜は、もう完全に冬。自分の吐き出す白い息が、体育館前の電灯に淡く照らされる。



「…小林淳也に相談するさ」



あとは愛の力でなんとかしろよ。



バスケ部エースにぶつけてやる口説き文句を頭に描きながらマフラーを巻き直し、進は帰路についた。
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