スマイリー
と、突然進の制服のポケットで鈍い振動音が数秒間続いた。



単語帳をめくりながら進は携帯を取り出し、こんな時間にくるのは迷惑メールの類いとは分かっていながら、受信メールをチェックした。



予想通り、新着メールは何やらいかがわしいダイエット用品を「在庫わずか!」などとお決まりの文句で宣伝してくるものだった。



そのような迷惑メールの中に混じって、既読ではあるが何通か同じ名前からメールが送られてきていた。



杉山正樹。



最近よく、杉山正樹からメールがくる。



杉山正樹(1年)は、進と同じ陸上部の後輩で、この間彼のクラスに昼食をよばれに行ったとき、少々の絡みがあった。



その日以来、ちょくちょく正樹は進に連絡をいれてくる。



内容は、部活のことと、沙優のこと。進が気になるのは、もっぱら後者だ。



正樹の話によれば、沙優ちゃん救出大作戦は、ひとまず上手くいっているようだった。



“効果があらわれるにはまだ少々時間がかかるみたいですけど、期待できますよ”



と、最も新しいメールには実に頼もしい内容が綴られていた。



「できた後輩を持ったもんだな、俺も」



「なんだなんだ?沙優ちゃんの話か?」



「お前は妄想してろ」



真後ろの席から身を乗り出して、進の独り言に口出しをしてきたあきらの額を、進は前を向いたまま単語帳で軽くひっぱたいた。



「いったぁ…つれないなぁ、進」



「俺がつれない理由を胸に手ぇ当てて考えてみるんだな」



「作戦の首尾はどうなんだよ」



「正樹によると、順調なようだ」



あきらが真面目な話を持ちかけたようなので、進も普通に答えた。



あきらと美紅には、沙優の悩みをだいたい打ち明けてある。有華には直接教えていないが、美紅が伝えたかもしれない。



沙優は、数週間前にバッティングセンターで会った1年生の後輩だ。正樹のクラスメイトでもあり、同様にクラメイトの小林淳也に片想いしている。



もっというと、小林淳也も岩瀬沙優に片想いしている。互いにその事は知らない。進は知っている。ゆえにもどかしい。
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