口説き魔
香たちの担任は、我が校一番の鬼教師と言われる荒谷 志郎だ。


彼に逆らう生徒と言えば、不良ぐらいだろう。


「HR始めるぞー。全員席に着け」


先生が少し大きめな声で呼びかけると、皆各々の席に座る。


「えー…。知っている人もいると思うが、転校生がウチのクラスに来る事になった。」


そう先生が言った途端に、教室中がざわざわし始める。


私語が広がっていく。


「静かに!!!」


荒谷先生が思い切り怒鳴ると、皆黙り込んだ。


…先生、怖っ。


「じゃ、入ってきてくれ」


廊下に向かって先生は言う。


転校生らしき少年が、教室に入ってくる。


整った黒髪に、整った顔立ち。


そして若干細めでおっとりとした、紫色の瞳。


本当に美形だなぁ…。


ふとそう思う。


「じゃ、軽く自己紹介して」


「八王子 幻と言います。趣味は料理と読書、特技は特に無しです。皆と仲良くなりたいので、宜しくお願いします。」


彼はそう言って、ニッコリと笑う。


優しげな笑みを、皆に向ける。


それに。


その笑みに。


香は違和感を抱いた。


だがそれは刹那の間だけで。


気のせいか、と彼女は思った。
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