口説き魔
「八王子の席はあそこな。」


荒谷先生が指差したのは、一番後ろの廊下側の席だった。


その席に、八王子は座る。


落ち着いた物腰で、どういう意味かはわからないけれど、薄ら笑いを浮かべながら。


女子は、『とんでもないイケメンが転校してきた!ラッキ~♪』的な目線で八王子を見ていて。


男子は、『とんでもねぇ美形が来やがった!!俺の青春がぁあ』的な目線で八王子を見ていた。


けれど香は、香だけはそんな印象はなかった。


転校早々、人気者だなぁ…。


そんな事しか思わなかった。


ああいうタイプは、中身が最悪そうだし―――。



      ◆             ◇



そして時はあっという間に過ぎ去って。


夕闇の放課後。


香は、一人で下校していた。


いつもなら、静流と一緒に帰るのだが……。


今日は用事があるとかで先に帰っていった。


「あれ??」


香は、見覚えのある後ろ姿を目にとらえる。


とても短い黒髪に、大きな後ろ姿。


幼なじみで隣の家の、天草 晴騎だ。


もう何年も見続けているその幼なじみの姿を見て、香は晴騎の肩をポン、と叩く。


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