山桜【短編・完結】
肩を落として、落胆するあたしに、

「で?
なに食べたい?」

笑顔の隆が、聞いてきた。

「おだんご」

ぼそっと、つぶやいた。

それを聞いた隆が、ブッと笑ったから。

あたしは、キッと睨んだ。

「俺も。
だんご食べたいと思ってたんだよ」

あたしを見て、笑顔で言う隆が憎たらしくて。

たまらなく愛おしくて。

あたしは、睨んでいた目を緩めた。

「で、何、食べる?」

数ある出店の中から、一軒のだんご屋さんの前で足を止めた、隆。

しょうゆ。
みたらし。
ごまだれ。

だんごと言っても、味はいろいろあっるけれど。

だけどその中で、あたしが一番好きなのは…。

お花見で食べたいのは…。

「くろみつ」

毎年、お花見のおみやげには欠かせない、くろみつだんご。

白いナイロン袋を手に、ご機嫌な様子の隆。

つないだ手を振り回して、隆は歩く。

目指す目的地。




わああ…。



あたしは、目を見開いた。

そこは、両脇に植えられた桜が我一番と咲き誇る、桜のトンネルだった。



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