山桜【短編・完結】
その数日後。

ふたりはまた、あの場所に来ていた。

太陽はとっくの昔に、遥か遠く山の向こうに沈んだ。

代わりに月の光が、ふたりの姿を写し出していた。

「景丸。あの日の約束を覚えていますか?」

『夫婦になろう』
誓った約束。

「もちろん!」

「今ここで。
景丸と一緒になれたら…」

ツーと。
涙が少女の頬を伝う。

「千…」

景丸もまた、腕を震わせて握り拳を作った。

すべては、あの日。
舞を披露した日に。

城の殿様に見初められた。

明日。
側室として、少女は城に迎え入れられる。

「私が好きなのは、景丸。
あなただけ、なのに…」

後から後から、溢れ出す涙を隠すように、少女は景丸に背中を向けた。

両肩を震わせて悲しむ少女に、少年は告げる。

「千。気持ちは、私も同じだ」

けれど…。
抵抗する力は、ない。

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