山桜【短編・完結】
離れ離れ
「姫様?」

美しい着物を身にまとい、庭を眺めていた姫は、呼ばれてゆっくりと振り向いた。

「小雪…」

姫と同じ年頃の小雪と呼ばれた少女は、その場にひざまずき、

「お呼びでしょうか?」

尋ねる。

庭に視線を戻した姫は、目の前に植えられた木々を見つめていた。

「明日、桜は咲くでしょうか?」

問われた少女は、姫に歩み寄り半歩後ろに座り直した。

「咲いたら、美しいでしょうねぇ?」

満開の桜の木々を想像して、小雪は答える。

「もし、明日。
桜が咲いたなら…。

小雪。
お前に頼みたいことがあります」

「はい」


……。
それは、秘密の約束。


『この桜が咲いたら
一緒になろう…』


あの日、交わした約束。

毎日、毎日。
想い続けていた。

あの日別れた、景丸のことを。

今どうしているだろう?
私のことは、忘れてしまっただろうか?


「あの人は、迎えに来てくれるでしょうか?」


誰にという訳でもなく、ひとり呟いた。

「あの人…とは、どなたですか?」

その呟きを聞き逃さなかった小雪に問われて、姫は答える。

「私が愛する、唯一の人」

一点の曇りもない姿を小雪はだだ、見つめるだけだった。




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