山桜【短編・完結】
桜咲き乱れる、春。

あたしは、空を見上げた。

サーッと、頬を撫でるように風が吹いた。

風に踊らされているように、散りゆく花びらが宙を舞い。

満開の桜の木々が、辺り一面を艶やかに色どっている。

「莉奈?
どうしたの?」

仲のいい、男友達。
隆(たかし)が、急に立ち止まり空を見上げた、あたしに向かって声をかける。

「ううん。なんでもないよ。
ただ、キレイだな…と思って」

そう言うと、一度は隆に向けた目線を、また空へと戻した。

懐かしい…。

5月の大型連休に合わせて、桜の咲く城下町。

この時期は、街中が桜一色。

中でも絶景なのは、城を取り囲むように、彩るように植えられた千本以上もある桜の木々。

人込みに紛れて、こうして桜を見にくるのは毎年のこと。

一年ぶりの風景。

「莉奈は、本当に桜が好きだな」

目を細めて、隣の隆は、うれしそうに微笑んだ。

あたしも、ニコッ、っと笑った。

この城の。

この桜の。

この風景が。

あたしは大好き。

毎年訪れる、この場所に。

あたしは凄く、懐かしさを覚える。

なぜかは分からないけれど…。



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