山桜【短編・完結】
いつもは、仲のいい女友達と訪れる『桜公園』。

最近になって彼氏のできた友人に、『今年は彼と行く』と断られてしまった。

ひとりで行く気にもなれず、今年の花見を諦めていたところに、意外にも隆から誘われた。

ふたりでどこかに行くなんて、初めてのことにドキドキで、胸が高鳴る。

けれど、これをデートと呼べるのかどうか…。

手を握る訳でもない、腕を組むなんてありえない。

変な距離感を保ちつつ、あたしたちは公園に辿り着いた。

GWの真ん中のこの日は、ちょうど桜が満開。

合わせて観光客の人込みもすごくて、隣を歩いていても隆を見失いそうになる。

と、視線を感じて、あたしは顔を上げ、隆を見つめた。

目が合うと、ドキリとする。

なんとなく照れ隠しに、『どうしたの?』と尋ねてみる。

すると隆は何も言わずに、あたしの手を取った。

そして、自分の手の平を重ねる。

重なり合う手と手が、熱い。
心臓もバクバクしている。

なんだか恥ずかしくて、うつむいてしまう。

こういうのは、馴れてない。

「いいよね?」

と、あたしの顔を覗き込むようにして隆が確認してきたので、あたしはただ、頷いた。




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