smooch【BL/完結】
「はい、こっちも少し早いけどお返し」
言いながら、放り投げるように渡したそれは、窓からの光に反射して銀色に輝きながら彼の手の中へと落ちた。
掌に収まったものは、小さめのキーホルダーの付いた鍵。
俺の家の物だ。
「家で甘いものでも飲む?」
渡された鍵を不審そうに眺めながらも、
そう言われると納得がいったんだろう、彼は素直に肯いた。
さすがに夜には家に帰す予定だから、
ついでにボタンもつけてあげようと思う。
似たようなボタンなら、シャツ類に適当なのがあるだろう。
もちろん貰ったボタンを返すつもりはない。
その後の車内で彼は、
少し遅れて笑いの波がやってきたらしく、
今は俺のポケットに収められた、奪われたボタンの事でクスクス笑いをこぼしていた。
「千切る、とか……っ」
バカとか言いながら、どうやらツボに入ったらしく、ようやく笑いが治まったのは到着間近の事だった。