smooch【BL/完結】
SIDE:先生
言える訳が無かった。
遠くへ行くなとも、傍に居ろとも。
ただ彼の為になるのなら、
どんな道を選ぼうとも良かった。
でも1回だけでいいからと、
そう言われた時には思わず口が滑りそうになった。
そして進学してからは1度も、
彼は俺の前には姿を現さなかった。
本当は1度だけ、成人式で見かけた。
その後の同窓会に彼は欠席していたから
本当に離れた所からだったけど、
元気そうなのは確認できた。
……俺が見ていた事どころか、
俺が居た事さえも、彼は気づかなかったようだけど。
あれからは電話とメールで
どちらも気まぐれに連絡を取り合う
それだけしかしていなかったけれど、
お互いに確かに恋人だと感じていたと思う
そう思いたい。
……今度確かめるか。
彼がこっちで就職を決めたと
報告を送ってきたメールに、
それじゃあ一緒に暮らさないかと返信した
返事は応。
思わずすぐに電話をかけた。
相手が無言電話というのも新しいと思う。
照れすぎだ。
4年ぶりにインターホンを鳴らされ、
ドアを開けて見た彼の顔は些か緊張して
だけれども笑顔で
「ただいま」
「おかえり」
ちゃんと俺の傍に、帰ってきてくれた。