smooch【BL/完結】
「……母さん、母さん」
『板チョコを包丁で刻みましょう』
最初のその工程を見て、あ、無理だ。と思った。
普段握る事すら滅多に無いのに、
ちょっと硬い物を、しかも小さくだなんて、危険すぎる。
キッチンばさみとピーラーに頼り切った我が家にはちょっと無謀じゃないか?
惨状を思い浮かべると同時に、
少なくとも溶かす作業まで進んでいた母さんの手が心配になった。
「なに?」
だけれど振り向いた彼女の手に傷は無く、そっと息を吐いた。
本を読んでないんだから、刻む工程も見ていなかったのかな。
割っただけで溶かそうとしたんだろうかと予想した。