smooch【BL/完結】
「……何で僕が持つの?」
鍋にお湯を張って、そこにボウルを突っ込んで。
その中にザーッと流し込んだチョコをヘラで混ぜながら溶かす。
その工程を何故か、僕がやっている。
チョコ作りって溶かして固める位じゃなかったっけ?
母さんは材料のチョコを、
「まあ、これぐらいかな?」
と、大変アバウトに入れただけだ。
そういえば何を作るんだろう。
てっきり溶かして型に流し込むのかなと、
それだったら量らなくていいからなと思ったけれど、どうも辺りに肝心の型が見当たらない。
袋の中身にそれらしい物は見当たらなかったし。
どうするんだろう?と今更ながらに疑問を浮かべていると、それが災いして、ボウルが傾いてしまった。
「……お湯が入っちゃったんだけど……!」
これでも固まるんだろうか。
ダメだったとしても、まだチョコはあるはずだ。
少なくとも、母さんが恋人に渡す分になるだけは。
とりあえず落ち着こうとしていると、
慌ててもいない母さんが気楽な声で言った。
「大丈夫よ、どうせ生クリーム入れるんだし。柔らかくていいのよ」
そう言われ、そういう物なのかと一応は納得する。
生クリームとお湯は大分違う気がするけど……とりあえず続けるか。