菊の花

《将様、どうやら美しいと言われても嬉しくないみたいですよ》

すかさず将の耳元で桔梗が呟く。

《そうか?嬉しいって言ったぞ?》

《将様、疎いです。・・・私にお任せを》

桔梗はそう言うと口を動かす。主の助けは付き人がするものである。

「追究とおっしゃられましたが、沙羅様は武術を追究しておられるのですか?」
「えぇ、たしなみ程度ですが」

明らかに沙羅の食い付きが先程と違い、表情が明るくなる。

「武術が好きなんですか?」

「はい、おかしいですよね。女がするなんて・・・でも、自分の身くらい自分で守れなくては・・・」

沙羅の言葉は嘘である。全ての理由は滅ぼすためである。

「いえ、自分が好きならばそれでいいのではないでしょうか」

桔梗は沙羅に優しく声をかける。沙羅の嘘に気付いていながらも。

「本当に?桔梗様は優しいのですね」

桔梗の努力の甲斐あって、沙羅の顔からは自然な笑みがこぼれていた。



< 28 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop