菊の花
《将様、どうやら美しいと言われても嬉しくないみたいですよ》
すかさず将の耳元で桔梗が呟く。
《そうか?嬉しいって言ったぞ?》
《将様、疎いです。・・・私にお任せを》
桔梗はそう言うと口を動かす。主の助けは付き人がするものである。
「追究とおっしゃられましたが、沙羅様は武術を追究しておられるのですか?」
「えぇ、たしなみ程度ですが」
明らかに沙羅の食い付きが先程と違い、表情が明るくなる。
「武術が好きなんですか?」
「はい、おかしいですよね。女がするなんて・・・でも、自分の身くらい自分で守れなくては・・・」
沙羅の言葉は嘘である。全ての理由は滅ぼすためである。
「いえ、自分が好きならばそれでいいのではないでしょうか」
桔梗は沙羅に優しく声をかける。沙羅の嘘に気付いていながらも。
「本当に?桔梗様は優しいのですね」
桔梗の努力の甲斐あって、沙羅の顔からは自然な笑みがこぼれていた。