真輔の風
「ここは場所が悪い。行こう。」
そう言って龍雄は歩き出したが、
百合子は動こうとはしなかった。
真輔は黙って見ているだけだ。
「早く来いよ。」
そう言って龍雄は百合子の腕を掴んでその通りを抜けた。
百合子の家はサラリーマン家庭、
新興住宅地に家を建てて移ってきたのが5年前。
子供は百合子の1歳上に毅という兄が、
2歳下に明子という妹がいる。
百合子たちの高校は県立だが毅は有名私学、
明子は受験勉強で塾に通っている。
と言う状態で、
必然的に家のローンのほかに学資がかなり要るようになっている。
だからここへ移って以来、
母の和子も働きに出るようになった。
父の直久は大阪まで通っているから、
片道二時間近くの通勤時間だ。
気が付けばいつの間にか、
家は持てたが家族がバラバラになってしまった感がある。
そして百合子は家に帰ってもつまらなくなり…
一年前、
中三の夏休みについ誘われて、
携帯メールで援助交際の話に乗ってしまった。
友達の何人かは経験しているようだ。