真輔の風
昨日は… なかったことにしよう、と
信じ込もうとしていたが… もう駄目だ。
別の世界に来てしまった。
何になりたいか、はまだ決めていなかったが、
それでも大学を卒業して、
颯爽と自信を持って生きている自分が見えていた。
それは蜃気楼だったのだ。
酒を飲みながら満足そうに茜を見ている
山城の視線を浴びながら、
とにかく服を着ている。
その頃には真輔たちは茜を探し始めていたのだが…
真輔は百合子を案内に、とにかく新開地方面へと走った。
「そう言えば、山城組の事務所は新開地と言っていた。
運転手さん、あんた、知らんかね。」
「山城組… さあ。」
「山城商事、とか言う看板をかけているようだが… 」
「山城商事… ああ、ひょっとしたら…
何となく分かりますが…
お客さん、あんなところは危ないですよ。
いかがわしい店も多いですし…
この間は、うちの運転手が乗せた客、
ヘロインでぐったりしてしまい、
ええ、意識が無くなってしまって、
慌てて警察へ届けたという話を聞きました。
明るい内はなんともありませんが暗くなると様子が一変して… 」
運転手の口ぶりからその辺りがいかに環境の悪いところか推測できた。