真輔の風

その声で一階のスナックから数人の男たちが飛び出してきた。

見れば… 親分が地面にひれ伏して泣いている。

側には変な老人が立ち、
冷たく鋭い視線で見下ろしている。

この野郎、と飛び掛ったものの、
栄作の振り下ろす木刀代わりのステッキの餌食になっている。

この爺は化け物か、と思ったところへ… 

遠くからパトカーの音が迫って来た。







「茜… 待てよ、茜。」




真輔は、いきなり走り出した茜を追っている。

自分たちが来たからもう大丈夫、と言う事を知らせたかった。

はっきり言えば、その時の真輔、

茜の心理状態を理解出来ていなかった。


どのぐらいショックを受けているか、など、

好きな推理小説で、
被害者の心理状態も書かれていたのだが、

文字の上だけで理解していた真輔、

実際の感情は理解していなかった。

主人公の探偵や名刑事の推理や洞察力にあこがれていた。

被害者は大抵の場合、

ヒーローに助けられて… 

ハッピーエンドだった。


そしてこの場合、
茜を無事に連れて帰る。

それが真輔の大切な任務だ。

茜は自分が理想としていた母親像の娘。

あの人が悲しむような事にはしたくない。



それにしても… 茜は速い。

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