真輔の風

一見すればどう見ても草食動物的な真輔だが

瞬発力を伴う度胸、

怖いもの知らずの心と、

動物的勘は完璧に持ち合わせているようだ。


運よく、いや、計算どおりに二人は、

三階のテラスがあったと思われるところで引っかかった。


発作的に飛び降りた茜は、

落ちたときのショックはあったが無事だ。

が、気が付けば自分の上に真輔の体がある。

信じられないほど軽い真輔の体。


どうして死のうとして飛び降りた自分を真輔君が… 

こんな自分の姿など母や祖母には見られたくない。

友達に知られたくもない。

いや、一番見られたくないのがこの真輔だ。



そして茜は、自分の上で不規則な呼吸をして、

動かない真輔を感じて驚いた。


こんな自分は… 
誰にも会いたくない、
見られたくない、

その心だけで夢中で走って、
駆け上って、飛び降りる。

そうすれば自分のことを知らない人ばかりのところへ行ける。

死ねば… この惨めな心から開放される、

と、死ぬことしか考えていなかった心が

吹っ飛んでいた。 



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