真輔の風
茜は誰かを呼ぶために動こうとしたが、
真輔の体がまともに乗っているし、
足場が揺れるようで怖くて動けなかった。
茜の胸から左足にかけて被さっている真輔…
痩せていても男、軽いと思ってもやはり重い。
が、その重さが温かかった。
小田切真輔…
小学校、中学の間は体も小さくて無口で…
同級生という意識よりも近所に住む可哀そうな子、
私が陰ながら守ってあげなくては、と思いながら目が離せなかった。
高校に入ったら背が伸びて…
それだけで周囲の見る目が違ってきた。
茜は中三の途中で西神中央へ移ったから半年ほど見なかったが、
高校は敢えて同じ学校にした。
入学式の日、おじいさんたちと一緒に校門を入ってきた真輔は、
まるで醜いアヒルの子が白鳥になったような気がした。
相変わらず無口で、
何を考えているのか分からないところがあった。
どういうわけか、不良と呼ばれている
宮村龍雄とだけはたまに話をしているが、
それが今は魅力に感じられていた。
女生徒の多くが魅了されて噂をするようになった。
そしていつしか、はっきりと自分の心が分かった。
私は小田切真輔が大好きだ。
だから幼なじみと吹聴して…
しかし、おばあさんと店に来ても、
自分のことは眼中に無い、という素振りだった。