真輔の風
取調べを受けている山城組の手下たちは、
社長が消えた今、少しでも罪を軽くしようと、
警察官が聞きもしないことまで
ぺらぺら話しているらしい。
須磨の飛び降り自殺とみなされていた高校生、
藤井加代子の死は、
彼らが脅して売春をさせていたが、
加代子に恋人が出来、
妊娠したことがわかり、
それまでの生活から縁を切るために、
自分に手を出せば彼らの悪行を警察へ訴える、と言い出した。
それで口封じ。
自殺に見せかけて屋上から突き落とされた、ということも判明した。
それから数日後。
真輔は祖父と夏休みの計画を立てた。
自分の体力をつける手立てを…
祖父と相談したのだ。
朝の涼しいうちにランニング、
とにかく持久力を養わなくては…
何か起こるといけないから必ず祖父が見ているときにする。
これが二人の立てた暗黙の計画だ。
そうなのだ…
口には出さないが、
茜に追いつけなかった、ということが
真輔にとっては涙が出るほど悔しかった。
自分は男で茜より背が高い、
ということは足が長い。
それなのに追いつくどころか、
ビルの階段は悲惨だった。
胸がつぶれそうだった。
必死で登ったが…
あれは惨めな経験だ。