真輔の風
そして、信一と吉沢百合子が訪れた。
信一はともかく吉沢百合子の様子が変わっていた。
大きなピアスやブレスレットもなく…
表情が明るくなっていた。
「真輔… 会えて嬉しいよ。元気そうで… 嬉しい。」
信一は真輔の顔を見ると… なんと涙ぐんでいる。
「お前、どうした。」
真輔は異星人でも見るような顔をして真一を見ている。
子供の頃から人には興味の目で見られた。
隠れたところで、こそこそされた経験は多い。
しかし信一のように、会えて嬉しい、と言って
涙を出すような人には会ったことがなかった。
が、悪い気はしない。
「小田切さん、これ、私が焼いたクッキー… 食べてみて。
後で病院へ行って宮村さんにも差し入れ。」
「クッキーか… 美味そうだな。皆で食べていいか。」
「ええ、そのつもり… 宮村さんの分はここにあるから。」
そう言って百合子は手提げ袋の中を指した。