真輔の風
「わあ、すごい部屋ですね。」
百合子の反応も信一のそれと似たようなものだった。
あからさまに驚いたような顔こそしなかったが、
顔の筋肉が不自然に動いた。
「ここにいると安心できる。」
そう言って真輔はクッキーをつまんで…
うまそうに食べた。
「吉沢さん、こんな特技があったのか。
すごく上手い。なあ、信一。」
「うん、すごいよな。きれいな形にしているし… 」
「ありがとう… 私、母と話したの。
長いこと無視されたような関係だったけど…
母は兄と妹のことばかりで…
寂しかったから…
私もいけないことをしていたし…
この間、おじいさんに送ってもらって家に帰る途中で言われたの。
寂しい、と言ってフラフラしていても解決には向わない、
居場所は自分で作るものだって。
心の中で望んでばかりいても手には入ってこない、って言われたの。
私… 考えたわ。
そしてその後、両親と話したの。
ええ… 私、自分のことを話して、
今までのことを誤って、今の気持ちも話した。
おじいさんに言われたの、
ゆっくり話し合うことが大切だ、って。」
「真輔のじいちゃんは昔、偉い検事だったのだろ。
警察官の誰かが丁寧に事件の報告をしていたぞ。
貫禄だなあ。」
話の途中で信一が栄作の事を思い出し、
まるで自分の祖父のような顔をして満足そうな声を出した。