真輔の風

「わあ、すごい部屋ですね。」




百合子の反応も信一のそれと似たようなものだった。

あからさまに驚いたような顔こそしなかったが、

顔の筋肉が不自然に動いた。




「ここにいると安心できる。」




そう言って真輔はクッキーをつまんで… 

うまそうに食べた。




「吉沢さん、こんな特技があったのか。
すごく上手い。なあ、信一。」


「うん、すごいよな。きれいな形にしているし… 」


「ありがとう… 私、母と話したの。
長いこと無視されたような関係だったけど… 
母は兄と妹のことばかりで… 
寂しかったから… 
私もいけないことをしていたし… 

この間、おじいさんに送ってもらって家に帰る途中で言われたの。
寂しい、と言ってフラフラしていても解決には向わない、
居場所は自分で作るものだって。

心の中で望んでばかりいても手には入ってこない、って言われたの。

私… 考えたわ。
そしてその後、両親と話したの。
ええ… 私、自分のことを話して、
今までのことを誤って、今の気持ちも話した。

おじいさんに言われたの、
ゆっくり話し合うことが大切だ、って。」


「真輔のじいちゃんは昔、偉い検事だったのだろ。
警察官の誰かが丁寧に事件の報告をしていたぞ。
貫禄だなあ。」




話の途中で信一が栄作の事を思い出し、

まるで自分の祖父のような顔をして満足そうな声を出した。

< 128 / 155 >

この作品をシェア

pagetop