真輔の風
「そうみたいだけど…
僕が生まれる前にもうこっちに来ているから知らない。
それで。」
そう言って真輔は百合子の話を聞こうとしている。
今は祖父の過去より、
百合子のクッキーにまつわる新しい展開の方が興味があった真輔だ。
百合子の母親には会ったことがある。
好きになれないと思った。
しかし、今の百合子の様子は…
あの母親がどのように変わったか…
そのことが聞きたかった。
「ええ… 私は勉強、好きではないし…
あ、でも高校生だからこれからは出来る限り頑張る、と思っているけど…
私は塾も行かないし、クラブも入っていないから、
夕方の食事の支度を手伝うことにしたの。
母はテクノパークにある会社のパートをしていて、
帰りに買い物をして食事の支度をしているから忙しいの。
だから私、手伝うことにしたの。
料理は嫌いではないし… 」
「そうだな。こんなのが出来るのだからたいしたものだ。
じゃあ、お母さん、喜んだな。」
「ううん、変な顔をしていた。
でも、父が賛成してくれたの。
父なんて… もう何年もまともには話をしていなかったのだけど…
そう、私も避けていたのだと思う。
私は出来が悪かったから。
でも、その父が、
母さんを手伝えることがあったらやってくれ、と言ったの。
そして、勉強だけが人の良し悪しを決めるバロメーターではないって。
おじいさんと同じことを言ってくれたの。
だけど人としての道をはずすなって。
私は既に反省しているのだから、
もう今までの事は忘れてやり直せばいい、って。」
「へえ、いい父さんではないか。なあ、真輔。」