真輔の風
「ああ、良かったな。
じゃあ、一つ気になっていることを説明してくれないか。」
「えっ。」
「あの手帳だよ。ほら、信一が拾った… 」
信一も気になっていたのだが、
こうして一緒に行動していても
気がいいと言うか、気が弱い性格で、
聞きたくても聞かれなかった。
真輔が言い出すのを待っていたようなところがある。
「あれは… その前の日に落としたのです。」
「前の日だったのか… 」
信一は、警察に届けなくて良かった、と改めて思っている。
「私… あの頃は…
期末試験の結果が、採点されて戻ってくる頃で…
兄や妹の学校も同じようで…
家の会話がそのことばかり…
家にいたくなくて… 」
「じゃあ、前の日から家に戻らなかったのか。」
信一があきれたような声を出した。
自分は龍雄と一緒になって夜遊びもしていたが、
いくら遅くなっても、夜が明けるまでには家に戻っていた。
「ええ… いけないこととは分かっていたけど…
たまだけど、須磨の高校へいっている友達と援交の真似事をして… 」
「真似事なのか。」
真輔が興味深そうな声を出している。
その真輔の様子…
援助交際というものをどこまで分かっているのか、と、考えてしまいそうだ。