真輔の風

「俺は昨日、龍雄のところで… 」


「そうか… 」



真輔の気のない返事。




しかし信一は、一応、自分が受けた感想を話そうと思った。




「だけど別に何も… 普通だった。
いつもの元気は… ちょっと無かったが、
何か大人っぽく見えて… 

元々俺はろくに話をしたことは無かったから… 
ここに、来ないのか。
意外と恩知らずだなあ… 
真輔は命の恩人なのに… 」


「いや、来ても僕は会えないが… 」




その言い方… 

真輔は何かを考えるような顔をして窓の外に目をやった。



二人は… 真輔の気持を考えている。

茜が組の事務所に連れ込まれ親分に弄ばれ、

茜の処女喪失がヤクザの親分、

ということが引っかかっていると思った。


そして茜の事を気にはなっても、

会って話をすることは遠慮しているのだ、と思った。



今、目の前にいる真輔はそんなに悩んでいるようには見えない。

ただいつもよく見せる、無表情の顔をしているが、

それは必死に自分の心を隠している事。


やはりそれ程に愛していたのか。

それは分かる。


何と言っても、
茜を助けようと一緒に飛び降りたぐらいだ。

下手をすれば二人とも死んでいた… 

いや、その可能性大だ。

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