真輔の風
そう思った真輔は黙って立ち上がり茜を抱きしめた。

これ以上女を放っておくとヒステリーが爆発する。


こういう時は… 

女を落ち着かせるのには抱きしめることが効果的、

と、この間読んだ小説の中で探偵が言っていた。


とっさに真輔の頭に浮かんだ行為がそれだった。


女の口を黙らせるにはキスも役に立つが… 

そんな事を思いながら、
驚いている茜を抱きしめて、身動きをしない真輔。





「しんす… 」




いきなり抱きしめられた茜は、ただ胸の鼓動が波打ち、

それこそ体中の血液が暴れ回っている。


頭一つ高い真輔の、ちょうど首から顎の辺りに顔をつけて、

動けないほど強く抱きしめられている茜。

突き放そうと暴れても、その力は強く放れられない。


当たり前だ。

真輔も、今度は女に負けないように、

男としてのプライドを持って、

必死の力を出して抱きしめているのだ。



その内に茜は、真輔の規則正しい鼓動に安心感を抱くようになった。

そう、とても安心できる真輔の温かさ… 

真輔君に、こんなに強い力があるなんて信じられない。

こんなに強く抱きしめて… 

いつまでも身動きしないで私を抱いてくれている。

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