真輔の風

「おーい、真輔。」



病院の玄関前で立ち止まっている真輔と茜… 

申し合わせたように、信一が百合子と近付いてきた。




「こんな所で脱線か。」


「うん、今行くところだ。」


「ねえ、山田君、今、真輔君にテニスをやりましょう、って、誘っていたの。
山田君もしない。
吉沢さん、どう。」




信一と百合子は茜の身に何がおこったのか知っている。

会った時に、どんな顔でどんな風に接しようか、

と悩みさえしたと言うのに、

当の茜は、何もなかったかのように明るい。


もっとも、真輔の表情は冴えない。




「テニスか、汗をかくなあ… 」


「でも、スポーツに汗はつき物だわ。私、やってみたい。」




と、吉沢百合子は嬉しそうに賛成している。




「そうか、百合ちゃんがしたいのなら… 」




百合ちゃん… いつから信一は吉沢のことをそんな風に呼ぶのだ。

真輔は思わず信一の顔を見た。

その真輔の気持ちを察したように

信一は真輔の顔を見て照れくさそうに、

そして嬉しそうに微笑んだ。

< 149 / 155 >

この作品をシェア

pagetop