真輔の風
「おーい、真輔。」
病院の玄関前で立ち止まっている真輔と茜…
申し合わせたように、信一が百合子と近付いてきた。
「こんな所で脱線か。」
「うん、今行くところだ。」
「ねえ、山田君、今、真輔君にテニスをやりましょう、って、誘っていたの。
山田君もしない。
吉沢さん、どう。」
信一と百合子は茜の身に何がおこったのか知っている。
会った時に、どんな顔でどんな風に接しようか、
と悩みさえしたと言うのに、
当の茜は、何もなかったかのように明るい。
もっとも、真輔の表情は冴えない。
「テニスか、汗をかくなあ… 」
「でも、スポーツに汗はつき物だわ。私、やってみたい。」
と、吉沢百合子は嬉しそうに賛成している。
「そうか、百合ちゃんがしたいのなら… 」
百合ちゃん… いつから信一は吉沢のことをそんな風に呼ぶのだ。
真輔は思わず信一の顔を見た。
その真輔の気持ちを察したように
信一は真輔の顔を見て照れくさそうに、
そして嬉しそうに微笑んだ。