真輔の風
それで別れに際して当然の礼を言った。
「別に僕は何もしていない。
礼なら龍雄に会った時、言ってくれ。
あいつはいい奴なのに皆から誤解されている。」
「でも… 私のために…
どこかへ行く途中だったのでしょう。」
「まあ… だけど、
龍雄は僕がいないほうが良かったみたいだ。」
と、真輔は何を考えているのか、
学校では絶対に見せないような、
いい顔をしてひとり微笑んでいる。
「えっ。」
百合子は全く真輔の心など理解出来なかったが、
それでも自分の前で見せた子供っぽい無防備な笑みに
気持ちが温かくなった。
こんな顔を見たのは初めてのことだった。
小学校の頃はたまに見ても咳き込んでいた姿しか知らない。
高校が同じになって何度か顔を見たが、いつも無表情だった。
「こっちの話さ。じゃあ… 」
真輔には何となく龍雄の気持ちが分かっていた。